「心と身体は相互に作用しあっていて、私たちの健康にも影響を及ぼしています。だから、看護を行う上では、患者さんの病気だけを見るのではなく、その方の心理面にも目を向けることが大切となります。でも、心は目に見えないのでとても難しいところです」と話すのは宮野公惠先生だ。
宮野先生は、これまで精神機能に障害をもつ人々への援助について、多くの研究に携わってきた。精神機能とは、意識、感情、知能、判断などの脳神経中枢の総合的な働きのこと。認知症や精神病などは、精神機能に障害をきたした状態であると言えるが、それらの症状は脳神経や神経伝達物質などの影響が大きいとされている。
「精神障害や認知症の方々に対して、偏見を持ってしまいがちですが、それらは脳神経の病変によるものなのです」
精神疾患を患ったり、認知症があったりして、上手く自分の思いを伝えられない人が、何を考え、どのような思いでいるのか、いま何を求めているのか……。それを100%理解することは難しいかもしれない、と宮野先生は言う。
「それでも、少しでもわかろうとすること、時にはその方たちの代弁者になれるように寄り添う、そして、精神機能に障害があっても、その人の望む生活をその人らしく生き生きと送れるように援助するためにはどうしたらよいのかを考えることが大切だと思い、次のような研究をテーマにしてきました」
新聞販売員の認知症サポーターの方々に、業務上の体験について調査を行ったところ、その多くに認知症の方との接点があり、戸惑った経験があることがわかりました。新聞販売員の方々に「認知症高齢者とその対応」について理解を促し、認知症高齢者が困っている時にサポートできる体制をつくることの必要性が示されました。新聞販売員だけでなく、地域で働くサービス業の方々とも認知症高齢者サポートのネットワークづくりをすることで、認知症高齢者が安心して生活できる地域づくりにつながると考えています。
東日本大震災で被災した統合失調症患者の家族へのインタビュー調査では、その多くが被災して住居を失っただけでなく、避難所での差別や居場所のなさを感じ、肩身の狭い生活を強いられ、さまざまな問題を抱えていたことが分かりました。それらの対応は災害が起こってからでは遅く、また周囲の偏見などを少しでも減らせるような支援が必要だと考えています。