インターネットが発達し高度情報化社会となった現代では、医学・看護の知識は検索すれば多くの情報を得ることができる。
「たとえば、大学の図書館に行けば古今東西の様々な医学・看護学の蔵書を見ることができます。一方でそれら膨大な情報の中には、古くて現代では通用しないものや、科学的根拠のない情報が数多く含まれています。間違った情報の発信は特定の個人に限らず、一部の企業や医師・看護師からも行われているのが現実です」と話すのは中嶋隆裕先生だ。
実際に現場で最善の医療・看護を提供するためには、常に最新の知識を得ることでそうした誤った情報に惑わされないようにすることが必要だ。
「また、看護の土台部分は解剖学・生理学・病態学などの基礎医学であり、誤った情報の多くは基礎医学の知識があれば見極めることができます。だからこそ、しっかりとした基礎医学の知識を身につけることは看護の質を高めていくために必須なのです」
アレルギー疾患は治療内容がここ十数年で大きく変化し、誤った情報や古い情報が未だに多く認められる疾患である。たとえば1980~1990年代の食物アレルギーの治療は、小麦や卵などアレルギーを誘発する原因食物を完全に除去することだった。さらに鶏肉アレルギーを持っている場合は鶏卵を、小麦アレルギーを持っている場合は醤油を除去することが当然のように行われていたが、現代ではアレルギーを誘発する原因タンパクが同定され、鶏卵や醤油には鶏肉アレルギーや小麦アレルギーを誘発するタンパク質が含まれていないことが判明したため、そのような治療は誤りであったことが科学的に証明されている(醤油の場合、特に重症な小麦アレルギーを持つ場合は例外的に除去することもある)という。
「現在では経口免疫負荷試験でアレルギーが起きる原因食物を特定した上で、必要最低限の食事制限を行い、負荷試験で確認できた安全に食べられる量は食べる、ということが標準医療となっています」と中嶋先生。アレルギー疾患は、新たな情報がわかることで、治療内容や対応方法が変わってきている例の一つといえるだろう。
「アレルギーや皮膚に関する知識が蓄積されたことで、スキンケアの常識も近年大きな変化が見られます」と中嶋先生。泡による洗浄や保湿の有効性が広く知られるようになり、赤ちゃんから大人まで泡による洗浄剤の使用や保湿を行うことは日常のことになっている。さらに、赤ちゃんの沐浴はこれまでガーゼを使って顔を洗うよう、親子学級などで教えられることが多かったが、今は泡で全身を洗いしっかり洗い流すことが重要であるという指導へ変わってきているのだという。
「最新の知識を根拠に、より良い看護技術・ケアにupdateしていくことは看護師の責務であり、醍醐味でもあります。大学で看護を学ぶこととは、そのような看護ができるように学ぶことであり、看護をupdateするために必要な教育を受けることなのです」