同じ姿勢で寝ていて背中が痛くなった経験はないだろうか? 患者は病気や怪我、手術による安静など、さまざまな理由で、体を動かして寝返りすることができず、圧迫された部分に傷ができてしまう場合がある。このような傷を褥瘡(じょくそう)と言い、看護師は、自分で身体を動かすことができない患者に対して2~3時間ごとに姿勢を変えて、同じ部位が圧迫されないようにしている(体位変換)。褥瘡(じょくそう)ができるのを防ぐため、体位変換はたとえ患者が睡眠中であっても必ず実施するが、睡眠を妨げてしまっている現状もある。
「私が看護師として病院で働いていた時、同じ患者さんに同じように体位変換しても、刺激で起きてしまい、すぐに寝られる場合と、眠れなくなってしまう場合を経験しました。この経験から睡眠中のタイミングを調整することで、仮に起きたとしても直ぐに眠れるようにすることができるのではないかと考えました」
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、ノンレム睡眠の中に「浅睡眠」と「深睡眠」がある。深睡眠は起きにくい睡眠であることが分かっていたため、菅原先生は浅睡眠と深睡眠で実際に体位変換をしてみて、その後の睡眠にどのような影響があるのかを実験した。
「健康な成人を対象に、浅睡眠で体位変換をする日と深睡眠で体位変換をする日で比較してみたところ、深睡眠のときの方が体位変換の刺激で起きてから再び寝るまでの時間が短いことが分かりました。この結果から、私が病院で働いていた時に経験したことは、浅睡眠と深睡眠で体位変換をしたことによって起こった違いであった可能性があると分かりました」
しかし、現在の技術ではリアルタイムの睡眠状態(レム睡眠やノンレム睡眠(浅睡眠や深睡眠))を正確に判定する方法が確立していないことや、レム睡眠で体位変換を行った場合については検証できていないなど、今後解決する必要がある課題が残っているという。また、これまでに菅原先生が検証したのは、体位変換をするタイミングだけで、起きにくい体位変換のテクニック(身体の動かし方や触れ方)もあるかもしれないということだ。
「患者さんにとって睡眠は、身体を休めて回復するためにとても重要な時間です。看護技術を工夫することで睡眠を妨げることを最小にし、一日でも早い回復につなげられるような看護技術を開発したいと考えています」と菅原先生は話す。
技術の進歩により、腕時計で動脈血酸素飽和度が測定できる技術、血圧計を腕に巻かなくても心電図と指先の脈波から血圧が推定できる技術、触れることなく映像から脈拍が推定できる技術、カメラを使わなくてもベッドのどの辺りにどのような姿勢になっているか推測できる技術…など、簡便にさまざまなことを推定できるようになってきた。
「私はこのような新しい技術を活用して患者さんにも看護師にもやさしい看護の実現を目指して研究していきたいと思います」