「『かんごしさん えほんをよんでくれてありがとう』。今から数年前、退院後に頂いた手紙にこう書かれていました。手紙をくれたのは検査のために入院した5、6才の女の子。ベッドで寝ていなければいけない検査後の安静時間に、お母さんが少し不在だったので、看護師だった私は絵本を数冊持っていて読んで過ごしました。そのことを退院後に覚えていて、後から手紙を書いてくれたのがうれしく、今でも気持ちが和らぎます」と話すのは、看護学科の水野芳子准教授。
病気とともに成長する子どもたちは、時に採血や点滴などの痛い処置や検査のための安静、家族や友だちと離れた入院生活、通院で学校を休む、運動を見学するなど、不本意な辛い経験をする。それを辛い嫌な経験だけにせず、前向きな力に変えられるのは看護師や医師など医療者の関わり方だという。「そのために欠かせないのが『遊び』の要素です」。
水野先生は続ける。「遊びは主体的で自由な意思による活動であり、楽しいと思う気持ちや夢中になれる力が遊びの根底をなし、生きる力を育成する重要な役割を持っています」。
乳児期には物を動かしたり音を出したりする感覚遊びや手足・体を動かす運動遊び、幼児期になるとごっこ遊び、絵本などの受容遊び、積み木や折り紙など構成遊び、というように遊びは変化していく。こうした遊びの中で人と関わり、五感の刺激を受けることで、体力と社会性が育つのだ。「自然に触れたり、楽しい経験をすることで気持ちも安定し、成長します。健康な子どもと病気のために入院しなければいけない子ども、皆同じように遊びが必要です」
近年のI C T(information andCommunication Technology)普及により、大人だけでなく子どもの生活や教育環境は大きく変化している。小学生のスマートフォン所持率は49.8%(2019年)と報告されており、学校教育においてもパソコンやタブレットが使用されている。その一方で、ネット依存やゲーム障害など、子どもへのICTの悪影響がしばしば深刻な問題としてメディアで取り上げられている。
「ICTを利用しない生活はもう難しいので、利点と欠点を知って上手に使っていくしかありません。外遊びも減っていますが、それでもどろんこ遊びや積み木、鬼ごっこ、縄跳び、トランプなどのカードゲームは、今でも遊ばれています。1995年から2015年の間で幼児の遊びは大きくは変化していないと言われています」と水野先生。
東京情報大学では一昨年から千葉市の区民祭で、看護学部と総合情報学部の教員と学生、地域の看護師や理学療法士、おもちゃコンサルタント、福祉用具の製造会社、植草学園大学の先生と学生など大勢が協力して、「みんなで遊ぼうPlay!Play!Play!」という障がいの有無に関わらず一緒に楽しく遊ぶイベントを行っている。
「病院でポケットに忍ばせたおもちゃや絵本を取り出し、処置で泣きそうになる子どもと遊ぶこともあります。共に遊び、看護師も子どもたちから力をもらいながら成長していくのです」と水野先生は話す。