看護師としての実務経験をもつ吉武幸恵准教授は、現役看護師の8~9割が抱えるという腰痛の予防や対策について研究している。これは患者を移動させたり、抱えたりする仕事に伴う弊害だ。一方で、「何でもやってあげる」という過度な介助は、患者のためにならない。たとえば、患者が『私は立ち上がりたい』『体を起こしたい』と言った時、看護師がお姫様だっこのように抱えて移動させることがある。
「それは、患者さん自身が動いているのではありません。物のように動かされているだけです。でも、人が動く時の主役はその人自身、つまり患者さんなのです。毎回、看護師任せで動いていると、患者さん自身でできることがどんどん減ってしまいます」と吉武先生。常に抱えて移動させることは、看護師への負担が大きくなる。それと同時に、患者の身体機能を低下させ、心にも悪影響があるということにも着目している。
「人に迷惑をかけたり世話をかけたり、自分は低い位置にいる人間だと思い込むようになり、心が弱っていきます。そうすると、せっかく体が回復しても、『自分でできる』『自分で動ける』という気持ちになれないのです。そのためにも『私はこういうふうに動ける』『私はこうすると楽に動ける』ということを患者さん自身が知っていると、『ここまで連れて行ってください』『こういう風に手伝ってください』と言える患者さんになることができます」
「学生たちは、実習で患者さんから『ありがとう』と言われることをとても喜びます。でも、私は『自分が褒められて、喜んでいていいのかな?』と返すようにしています」という吉武先生の真意は、患者本位にある。
「『辛いことがなくなった』『できなかったことができるようになった』という患者さんの変化こそ、看護師にとって本当に嬉しいできごとであり、やりがいなのではないでしょうか?」