2018年の日本の出生数は、統計開始以来最少を更新し、少子化は大きな社会問題となっている。「少子化対策というと、女性が仕事と育児を両立できるよう労働環境を整えたり、保育所を増やしたりという対策にばかり目が行きがちですが、出産したばかりの女性にとっては、子育てに寄り添い、孤立しがちな産後をサポートしてくれる専門家がいつでも近くにいて相談できることも、とても大切な対策の一つです」と市川香織教授。国は2020年度末までに、全国の市区町村に「子育て世代包括支援センター」を設置し、妊娠中から子育てまで、切れ目のない支援をワンストップで行えるようにすることを推進している。
多くの妊婦は出産をゴールとしがちだ。すると、出産後すぐに始まる子育てに戸惑ったり、泣き止まない我が子に焦ったりするなど、これからの生活に大きな不安を感じることがある。出産後の入院期間は短く、自分の身体の回復もままならない中、子育てが始まってしまう。実家に里帰りして、親の支援を受けながら子育てをする風習も、親が働いていたり、その上の世代の介護をしていたりするため頼れず、夫婦二人で子育てを始めざるをえない人たちも少なくない。
地域で活動する助産師や保健師は、出産したばかりの親子を家庭訪問して、母親の身体の回復や子の成長発達、授乳の状況などを確認する。最近では、メンタル面のケアも手厚く行う。さらに、家族間での役割の調整を行ったり、必要に応じて継続した支援へとつないだりもする。「母子にとって地域で活動する助産師・保健師は実家の親に代わる大きな存在であり、生活に身近な地域の支援につないでくれる専門家でもあるのです」
母性看護の果たす役割は、出産という医療での一場面のみならず、医療機関から地域への連携、地域の中での専門家間の連携の場面でますます重要になっている。出産や子育てを医療の視点のみならず、生活の視点でとらえ、生活の場に看護職自身が出向いていき、地域で親子に寄り添えるよう、地域で活躍している助産師や保健師の協力を得て、実習を展開していくことが大切だ。