内閣府が提唱するSociety 5.0の実現に向けて、フィジカル空間(現実空間)の多様なデータを収集、サイバー空間(仮想空間)で解析・処理し、そこで創出した価値ある情報を現実空間にフィードバックするサイバーフィジカルシステム(CPS)が注目されている。CPSでは、IoTデバイスからセンシングした環境データや自治体が公開するオープンデータなどをもとに機械学習を用いて分類・予測を行い、Web技術を活用して利用者に有益な情報をリアルタイムにフィードバックする。
「CPSの具体例として挙げられるのは、スマート工場における生産管理やロス削減、鉄道電気設備のスマートメンテナンス、AIによる飲料推薦自販機、医療・工業・農業・教育・エンターテインメントなど、幅広い分野での活用が期待されています」と話すのはゲーム・IoT研究室の河野義広先生だ。
「私たちの研究室では、子ども向け学修支援システムの開発・運用を進めています。季節のお祭りや多世代間交流イベント、生涯学習など、地域の特色を活かし、お互いの顔が見える地域活動は、子どもの自立に対する好影響が期待されています。しかし、コロナ禍以降はこのような活動が制限されてしまいました」
河野先生のゼミでは、子どもの主体的な学びに着目して、こどものまち(子ども達が自治運営する子どもだけのまちづくりイベント)やIT大学(地域活動時に併催するITを学ぶイベント)、プログラミング教室(地域活動や民間の教室、NPOのイベント時に合わせて開催)などの活動に取り組むとともに、子ども向け学修支援システムの開発・運用を進めている。コロナ禍に配慮して、2020年度からはオンラインと対面の参加者が連携し、社会的距離を確保しながら活動する地域活動「ウォークアドベンチャー」の企画・運営も開始。この活動は、ウォークラリーの要領で地域のスポットを巡りながらクリアタイムを競うもので、子ども向け学修支援システムと併用しながら主体的な学びを促す地域活動を実践している。
この学修支援システムは、地域活動時の子ども達の学びの記録を収集し、その分析結果をフィードバックするというもの。
「収集した多種多様なデータに基づき、一人ひとりの子どもに適した分析結果を即座にフィードバックできる点は手作業でのフィードバックと比較した際の差別的優位性であり、はじめに説明したCPSの具体例でもあります。本システムでは、子どもの発達段階と活動内容に応じた質問項目を生成するアンケートシステム、およびその回答結果に基づいた分析結果を提示するフィードバックシステムで構成されています」と話す河野先生。
ウォークアドベンチャー用フィードバックシステムでは、収集したデータを機械学習により分類。参加者グループを「アチーバー(達成者)」「エクスプローラー(探検家)」「ソーシャライザー(社交家)」の3種に分類し、分類結果と達成度に応じた称号付与、ミッション提示などを行った。
「このような参加者の志向に適応したリフレクション支援が次の主体的な行動に好影響を与えるかを調査したところ、活動回数の増加に伴い達成度の上昇傾向が見られました。今後は、ウォークアドベンチャー以外の活動に対応したフィードバックシステムの開発や地域活動を通じた継続的なデータ収集・分析を行っていきます」