2022年4月から、高校家庭科で「金融教育」が始まったことは知っているだろう。経営情報研究室の堂下浩先生は、金融と情報が融合した分野「フィンテック」について研究している。
「メガバンクによる決済システムの不備が度々発生するなど、日本における金融と情報が融合する先行きに不安を感じざるを得ません。一方、アメリカやイギリスでは金融と情報の融合が進み、フィンテックの普及は社会で着実に進んでいます」と堂下先生。
フィンテック先進国と呼ばれるアメリカやイギリスにおいて、金融と情報の融合は「金融の民主化」、つまり「下からのイノベーション」という側面から普及してきた。金融分野における情報化の進展は、社会で活躍する消費者や事業者にとってさまざまな金融商品にアクセスできる機会を広げ、社会の活性化と格差是正がはかられる。そして政府は、金融と情報が融合した社会で求められる方向性を見出しながら、新たな市場で求められる制度を整備していく。
日本においてはこうしたルール整備が、社会の要請に間に合っていないように見える。社会ではデジタルの普及が広く進む一方で、アナログの時代に作られた法律に基づき、消費者も、事業者も金融市場を利用しなくてはいけない状況下に置かれているのだ。
「『銀行での取引が前近代的で時間がかかる』『クレジットカード申し込みが煩雑』といったことだけでなく、『個人情報の取扱規定が複雑で理解できない』など、利用者の視点が大きく抜け落ちているように感じます。こうしたルール整備の不適合がフィンテックの進展、さらには社会で消費者や事業者が成長する機会を摘んでしまっている実情は看過できません」
アメリカやイギリスでは急成長を遂げる新たな金融手段としてフィンテックが脚光を浴び、ベンチャー企業を含む中小企業向けに「トランザクションレンディング」と呼ばれる新たなフィンテックサービスが普及している。
元来、緊急性の高い融資は高いリスクを伴い、銀行も敬遠してきた商品だったが、アメリカのI T企業はそこに注目した。融資先の財務データをあまり重視しない代わりに、ビッグデータに蓄積された取引履歴に基づくキャッシュフローを統計的に分析・与信するサービスが「トランザクションレンディング」だ。
日本でも海外でのトランザクションレンディングを参考として、いくつかの企業による先行事例が存在する。しかし日本市場の課題として、「利息制限法」という法律が普及の阻害要因となっている点が挙げられると、堂下先生は話す。
「利息制限法の上限金利では100万円を20日間貸付けた場合、利息上限は8,000円程度で、この水準は他の先進国には類を見ない極めて厳しい規制となっています。現行の利息制限法は、大卒の初任給が1万2,000円だった1954(昭和29)年の法制定以来見直しされておらず、実情に合致していないのです。そのため日本では、フィンテック普及に向けて利息制限法の上限金利を、トランザクションレンディングに限り上限金利に引き上げることを特例とするなど、新たな制度設計が不可欠となっています」