「百聞は一見にしかず」というように、「見る」ことは、何かを理解するうえでとても役に立つ。特に、見ることができないものを見えるようにする「可視化」は、さまざまな分野において活用されている。例えば、小学校で気温を折れ線グラフで描いたり、咲いている花の数を棒グラフで表したりするのも、実際のデータを元にしたデータの可視化だ。
「データ可視化には、データの特徴を把握する『探索』、データから新しい知見を見つける『発見』、分析結果などを分かりやすく伝える『伝達』という役割があります。近年のビッグデータやデータサイエンスへの注目に伴い、データ可視化の重要性はさらに高まっています」とデータサイエンス基盤研究室の藤原丈史准教授は話す。
当然、データの可視化には折れ線グラフや棒グラフといった基本的なグラフも使われる。一方で、これまでに多くのデータ可視化の手法やシステムが研究され、実際に活用されている。例えば、SNSのユーザ同士の関係や、ある文章内の単語といったデータ同士のつながりを表現し分析するネットワークグラフや、地図の上に位置情報をもつさまざまなデータを重ね合わせ分析を行うGIS(地理情報システム)、ビジネスにおける意思決定のために複数のグラフを組み合わせ、大量データでも高速かつインタラクティブに表示・分析できるBIツール(Business Intelligence Tools)等が現実に使われている。
とはいえ、データ可視化は最近になって活用されはじめたわけではなく、コンピュータが登場するもっと古くから利用されていたと藤原先生。
「例えば、近代看護の基礎を築いたナイチンゲールは、戦争での死者が直接的な負傷よりも不衛生な環境や治療によるものが多いことを示すために、鶏冠(とさか)図を開発しました。また、現代疫学の父とも呼ばれるジョン・スノーは、地図上にコレラ患者をマッピングすることで、コレラ感染拡大の原因を明らかにしました。また、当時は紙上で表現していましたが、現代はもちろんコンピュータ上で表現しますので、グラフをズームしたり、異なる角度で見たり、フィルタをかけたりするなどユーザがインタラクティブな操作ができる、つまり、静的なグラフから動的なシステムへと進化してきたのです。」
今後、コンピュータ環境がさらに発展すれば、新しい形のデータが生まれ、異なる観点から新しい目的に向かった、新しいデータ可視化の手法が必要になってくる。そのためには、データの特性や目的に沿った表現方法や操作方法を研究する必要がある。そこで藤原先生は注意点をこう述べる。
「これからは、人間における視覚認知の特性を、もっと考慮に入れなければならなくなるでしょう。少数の異なる色の対象に自動的に注意が向いてしまうポップアウト効果や、集まったモノ同士を無意識にグループとして認識してしまうゲシュタルトの法則等、問題はたくさんあります。ですが、可視化は人間の直感に訴えるものなので、直感的なアイデアで新しい可視化の方法を考えてみるのも良いかもしれません。」