ここ数年、ドローンの話題をよく耳にするようになった。ドローンというこの名前、雄バチ(drone)が飛ぶときのブンブンという羽音がプロペラの回転音と似ていることが由来といわれている。ドローンは複数のプロペラを持っていて、それを高速回転することで飛行する。回転翼(ローター)の数が4つのものをクアッドコプター、6つのものをヘキサコプター、8つのものをオクトコプターと形状によって呼び方が異なる。従来の無人飛行機(ラジコン)と違い自動飛行※ができる点が大きな違いだ。このドローンの活用と広がる未来について研究しているのが生命・環境科学研究室の朴鍾杰先生だ。
※コンピュータ制御により機体を安定させ、あらかじめ指定したルートに沿って飛行すること。
2018年1月、オーストラリアの海岸で、安全区域の外で高さ3メートルの波にのまれている2人の男性が発見された。実はこの2人の男性、ドローンに助けられたのだ。これはドローンが人命救助した初の事例としてニュースなどに取り上げられたので、知っている人もいるのではないだろうか。ではどうやってドローンは人命救助に役立ったのだろうか。
ドローンには、基本装置として運動を司る3軸の角度と加速度を検出する慣性計測装置(IMU)、位置情報を測位するG P Sモジュール、これらドローンに搭載されているセンサーやドローンを操作するための送信機(プロポ)からの信号をもとにプロペラにつながるモーターへの電流に指令を出すマイクロコントローラーが備わっている。そのほか、ドローンは応用分野に応じていろいろな装置が実装できる。今回のようにレスキューの分野であれば医薬品、浮き具、赤外線カメラが代表的だ。ライフセーバーが直接救助する場合にかかる時間が最大7分に対し、ライフセーバーが連絡を受け男性たちの捜索と浮き具を正確に投下するまでわずか7秒。この様子はドローンカメラによって記録され、YouTubeなどで配信された。
例えば、農業分野だって応用が可能だ。植物の光合成活動を調べるのに有効な近赤外カメラと可視カメラ(一般のデジタルカメラ)によって、農作物の生育ステージや害虫等による被害の様子を地図化し、それをもとに農薬や肥料が必要なところにピンポイントでドローンを利用して散布することで効率的に農作地を運用することができる。
物流分野でもその活躍は多くの企業が注目しており、実際、Amazonをはじめ、世界各国の大手物流会社はドローンによる配送についての実証実験を進めている。
また、記憶に新しい熊本地震では被害状況の把握と断層の様子を、御岳山噴火による行方不明者の捜索、口永良部島の火山活動の監視、噴火状況や被害状況の確認など、2次被害の危険性のため調査・捜索が困難な場所でさまざまなドローンが利用され、災害対策分野でも成果をあげている。
「ドローンはただの『箱』にすぎない。その箱をどう使い、何を入れるかによって無限の可能性が秘められている」と語ったのは3DRobotics社CEOのクリス・アンダーソンだ。当初、ドローンは飛行体として開発がはじまり、「眼」を与えられたことで作業機器として使われ、操作の自動化と自立化が進み、今後は「飛行できるロボット」としての利用がより一層求められている。「もしも自分がドローンと同じように飛んだらどのような行動をするかを考えると、ドローンに期待することが見えてきます」と朴先生。撮影機能としての「眼」だけでなく、撮影した画像にリアルタイムの識別能力を組み込む「脳」を持つことで、これまで以上の高度な作業が望めるようになる。AI(人工知能)を利用した画像解析を行うことで、安全性を優先し、人間と一緒に仕事ができる「AIドローンロボット」の開発に力を注いでいる。ドローンの活躍の幅は今後ますます広がりを見せそうだ。