「情報技術をいかにして新しい価値に結び付けるかを考えることは、エキサイティングでおもしろいことです。私の研究テーマは、情報技術と企業経営が交差する部分にあります」と話すのは、経営情報研究室の樋口大輔准教授。
従来から経営情報システムといわれてきたものは、コスト削減や業務効率の向上といった企業経営の、どちらかといえば裏方への貢献という側面が強かった。しかし、これからは新しい価値をいかに作るのかという点が主要な関心となる時代だ。
3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)やセンサー、モーションキャプチャ(人・物の動きをデジタルデータとして記録する技術)、RFID(電波や電磁波を用いて非接触でデータを読み書きする)、画像認識など、近年における情報技術の発展は著しく、それぞれが高い可能性を秘めている。これらを用いると、既存の業務を効率良く行えるようになるかもしれない。
だが、樋口先生は今までにない何かを創ることができるのではないかと考えている。
「企業において、最新の情報技術をどのような場面で活用すれば、あるいはどのように組み合わせれば、経営はもっと良くなると思いますか。簡単に答えは出ないでしょう。新しい情報技術やテクノロジーをどう活用すれば斬新な商品やサービスにつなげていくことができるのか、多くの人が試行錯誤をしている最中なのです。」
例えば、企業全体における問題解決と情報技術という側面では、「業務の無人化・省人化」があげられる。
「最近、画像認識技術をフル活用したコンビニやいくつかの小売業の店舗で、いわゆる『無人店』の導入が試みられていますよね。少子高齢化が著しい日本の深刻な問題のひとつが、労働力不足です。そこで考えれる解決策のひとつが、今まで人力で行っていた業務の一部もしくは全部を、機械が行うようにすることなのです。」
さらに樋口先生は続ける。「マーケティングの分野においては、例えばアドテクです。アドバータイジング(広告)とテクノロジーを組み合わせたこの言葉には、今どきの広告が非常に高度な情報技術によって支えられていることが示されています。私たちがスマホでWebページを開いたとき、ページが開くまでのコンマ数秒の間に広告枠の争奪戦が静かに行われ、あなたの趣向に合わせた広告が選択されます。その陰には、膨大な量のデータと、高度な分析があり、多数の企業の間で莫大なお金が動いているのです。」
樋口先生の研究室には、情報技術への関心はもちろん、それをどのように活用するのかということに関心を持った学生が集まっているという。プログラミングをしてコンピュータを操るというよりは、いろいろな情報技術を組み合わせることで、企業がどのような商品やサービスを生み出すことができるのかということに関心を持った学生が多い。
「時には、自分たちでアプリや小規模なシステム開発を行い、実験データを取得するなど、文系の研究室でありながら、かなり技術系のテーマも扱うなど幅広い学びができるのがこの研究室の特徴です。経営を学び、コンピュータの少し気の利いた使い方を身につけながら、現代の企業経営に関する問題に、さまざまな解決策を模索しています。」